西村佳津子歌集『草の実の飛ぶ街』

草の実の飛ぶ暮らしを重ねて

 米寿を迎えた著者が上梓した記念の歌集。下町の何気ない日常風景の中から詩情を汲み取る平明な歌に、いつしか読者の心も穏やかなものとなってゆくに違いない。

 いつしかに移ろう季の閑かさよ淡き日差しに草の実の飛ぶ
 道沿いに咲く紫陽花にそっと触れ語り合いつつ母子は行けり
 帰るたびポストを覗く家族にはそれぞれ何か期待のあって
 身のほどを知らぬほど実をつけし柿会津の色に熟れたるものぞ
 パンダ見る上野の山に冬桜けむりのように咲きはじめたり
 花びらの一つが土を離れざま車のように走りはじめつ