柿本希久歌集『死と不死』

 歌人、陶芸家である作者は、広告業界でコピーライター、クリエイティブ・ディレクターとして活躍した人物でもある。じつに多才だが、これらの才能は調和には向かわない。むしろ、屹立した個性と個性を軋ませながら熱量を帯びてゆく。そのとき思いがけない化学反応が生まれ、文学や造形芸術の境を超えた豊かな死生観が立ち上がってくるのである。 栗木京子・帯

自選五首「残喘歌」
・ガス室の煉瓦に隠(こも)る残響か生き身の声につと粟立てり
・有機体の脳を置き換へ無機体にす 人間の死と不死のはじまり
・油蟬をくはへて飛べる鵯(ひよ)の顔いかめしくあれ生死(しやうじ)の掟
・生くることその心臓部を性といふ存(ながら)へていま雌雄同体
・死ぬ日まで人は笑へる生きものと思ひ至りて遺言を書く