「〇」書房たち

2018/12/23

 鶫書房は「鶫(つぐみ)」という漢字一字+「書房」だが、社名や屋号に漢字一字を用いた出版社はどれくらいあったのだろうか。一字しかないから、その字にかける思いは深いものだろう。
 ちなみに鶫書房については、私の体型や雰囲気などから鶉書房と書かれたり読まれたりするのだが、ウズラではなくツグミですので宜しくお願いします。もっとも、鶉は好きな鳥で、テヘラン留学時代に家で飼っていた。良い声で鳴くので江戸時代には鶉合わせという鳴き声を競う文化もあったほどだ。イランでは食用に路上で生きたまま売っているのである。肉は少々臭みがあり、私はその味をあまり好まない。鶫も美味とされ、徳田秋声の好物でもあったような気がする。

 ところで漢字一字を用いた出版社、詩歌の分野でも雁書館、邑書林、柊書房などがある。ここでは漢字一字+「書房」の組み合わせを社名・屋号とした出版社のみ紹介する。現存するもの、現存しないものが入り混じっている。なお新刊書店や古書店は一応省いたつもりである。幾通りにも読むことができる漢字の場合は読み方不明の場合も多いので、それが社主の姓から採ったものなのか、一般的な意味を持つものか、わからないものもある。中には一冊しか本を出さない、つまりその本のために便宜上発行所としてつけられたものもある。もちろんここに挙げるのは一部で、他にもあると思う。漢字の数だけあり得るわけだから。
 鶫は鳥なので、鳥の漢字一字の場合。鶯書房、鳳書房、雁書房(雁書館とは別)、鶴書房、鳰書房、鳩書房、鷭書房などがあり、獣では熊書房、犀書房、虎書房など勇ましい。魚では鮎書房、鱒書房があり、魚ではないが魚篇の漢字で鯨書房がある。
 出版という行為自体が植物的要素を持つものなのか、動物よりも植物が好まれるようで、上掲の柊書房のほか、葵書房、茜書房、葦書房、梓書房、槐書房、柏書房、桂書房、黍書房、桐書房、艸書房、栗書房、欅書房、桜書房、篁書房、竹書房、楡書房、槙書房、麦書房、蘭書房など多彩。
 天文や気象に関するものには、暁書房、旭書房、石書房、影書房、霞書房、風書房、虹書房、光書房、星書房などがあり、山野に関するものとして丘書房、崖書房、原書房、牧書房、峯書房、陸書房、海や川など水に関するものとして泉書房、潮書房、濤書房、湊書房がある。岩波書店や新潮社の隆盛にあやかってか、水に関する出版社名は縁起が良いとされる。都市に関するものでは径書房、街書房、都書房、道具関係では櫂書房、弦書房、縄書房、房書房があり、糸書房など可愛らしい。
 方位だと北書房、東書房、色だと紅書房、緑書房、紫書房、数字だとニ書房。その他に怪書房、学書房、要書房、季書房、萌(きざす)書房、劇書房、傑書房、静書房、成書房、平書房、糺(ただす)書房、宝書房、力書房、佃書房、哲書房、漠書房、肇書房、塙書房、遥書房、福書房、凡書房、操書房、豊書房、崙書房など。

 例外はあるが、漢字一字の出版社はいかにも小出版社という感じがして、個人的には好きである。知られていない社も多く、現存しない社もまた多い。創業者一代限りと最初から決めていたところも多かったのではないか。どういう経緯を辿り、どういう思いで始められたのか、知る由もないが、その小さな歴史には小出版社ならではの喜怒哀楽が秘められているのではないかと想像する。