押切寛子『石川信夫の中国詠――歌集『太白光』の「江南春」抄を読む』刊行

2019/03/21

 「宇宙風」代表の押切寛子さんの著書『石川信夫の中国詠――歌集『太白光』の「江南春」抄を読む』を刊行した。346頁の大冊となった。装釘は平本祐子氏にお願いし、故三嶋典東氏の絵を装画として使用させていただいた。あらためて感謝申し上げます。
 
  此方の陣地と向き合つている敵の陣地の真ん前まで、これはまつぴるま、何度か強行偵察にでかけた。
  その途中、
  春、花が美しかつた、
  菜の花、すみれの花、あんずの花、すももの花。
  あんなにギラギラと美しい花は見たことがない。
  小さな塚のかげで止る。
  葦平さんはここだ、と小さなノートを出す。
  スミレ。ココロヤサシクなりてかなわず。
  陣地の夜、ローソクの灯を枕もとに、
  むらさきのすみれ花見れば兵われの心やさしくなりてかなわず
  とまとめる。
   江蘇省金壇県直巷村。野砲一、臼砲一、重機一、軍犬二、そして歩兵が二十七名だつた。


 これは帯に引用させていただいた石川信夫の文章である。戦場に『シネマ』の歌人石川信夫がいた。私はこの文章を読んだとき、心震える感動を覚えた。その石川信夫が戦後にまとめた歌集が『太白光』である。諸般の事情で少部数しか残っておらず、現在その原本は稀覯本となっている。押切さんは現在の「宇宙風」の代表・編集発行人としての強い責任感と、石川信夫への深い敬慕の念から、長年同誌に連載されていた文章をまとめた。この『シネマ』の歌人が戦争をいかに見つめ、いかに詠んだのか、戦争体験を通して何が変貌し、何が変貌しなかったのか、本書を読んでいただきたいと思う。
 本書の刊行を契機に、石川信夫再評価の機運の高まることを期待してやまない。