古川サチ子歌集『緑蔭』刊行

2020/09/30

 古川サチ子歌集『緑蔭』を刊行した。装幀は船津朝子氏。明るく爽やかな装幀になっています。著者の古川サチ子さんは「翔る」会員で本歌集ははじめての歌集となる。柚木新氏が解説を書いてくださった。感謝申し上げます。
 柚木氏の解説の一節「哀傷歌を詠う胸うちに相聞歌の息衝きが聞こえる」が歌集の本質を的確に表している。御夫君が不慮の事故に遭った後、長い歳月を「介護」というかたちで、共に生きてこられた。その御夫君を失われた悲しみを詠った歌は、歌集の代表作と言えるが、その介護生活はけっして暗く辛いばかりのものではなく、二人にとって大切な時間であったことがうかがわれる。
 全体的に明るく、おかしく、爽やかな歌が多く、古川さんが今後、新たな気持ちで積極的な生を歩まれていくことを祝し、また、そうあって欲しいと祈っている。歌集は当人の「生きた証」でもある。そして、そこからどのように生を展開していくのか、そのことこそ楽しみなところである。
 先師である故・山田震太郎氏への思いも随所に感じられた。歌集の編集にも柚木氏はじめ「翔る」会員諸氏が協力してくださり、とてもアットホームな会の在り方を感じることができた。

・送られてかえり来る夫の手提げには彩り淡き紙雛二つ
・春はまだ名のみの夕べに読みかえす三春民話の駒はいななく
・出勤の夢の途中か腕時計はめる仕草をくりかえしつつ
・年ごとの盆の支度はいつしかに楽しみとなり夫を迎えん
・春おそき湖北にであいし満開の桜ふたたび夢のつづきを

 私の好みの歌五首を挙げさせていただく。読み返してみてそれなりの数の「夢」の歌があることに気づいた。介護生活による睡眠不足や精神的疲労のゆえでもあろうが、今では過去の日々そのものが夢のように思える瞬間もあるのではないだろうか。古川さんがよい「夢のつづき」を生きられることを祈っています。